『クラック・ア・スマイル…アンド・モア!』
ポイズン
ポイズンの『クラック・ア・スマイル…アンド・モア!』(Crack a Smile…and More!)は、バンドにとっての転換点となったアルバムです。このアルバムは、もともと1995年にリリース予定だったものの、レコード会社の事情により1990年代後半まで日の目を見なかった作品です。結果的に2000年に発表され、未発表曲やライブトラックが追加された「アンド・モア!」の形でリリースされました。ポイズンのフロントマンであるブレット・マイケルズの交通事故やグランジの台頭など、バンドにとって困難な時期に作られたこのアルバムは、従来のポイズンのサウンドにユーモアと爽快感を加え、ファンに新たな一面を見せています。
『クラック・ア・スマイル』では、CC・デヴィルの代わりに加入したギタリスト、リッチー・コッツェンを経て、ブルース・サラセーノがギターを担当しています。サラセーノのギターワークは、以前のCC・デヴィルやリッチー・コッツェンとは異なり、より多彩でメロディアスなアプローチを取り、ポイズンのサウンドに新鮮さをもたらしています。
アルバムのオープニングを飾る「Best Thing You Ever Had」は、エネルギッシュでキャッチーなロックチューンで、ポイズンらしいパーティーロックの雰囲気をそのままに、より洗練されたサウンドが感じられます。サラセーノのギターリフが前面に出ており、バンドの演奏力が一層向上していることが分かります。
続く「Shut Up, Make Love」も、ポイズン特有の遊び心とユーモアが溢れる曲です。軽快なリズムと耳に残るコーラスが特徴的で、1990年代の音楽トレンドにうまく溶け込みつつも、彼らの持ち味を失っていない点が魅力です。この曲は、まさにポイズンの「スマイル」を象徴する楽曲で、彼らの陽気なエネルギーが感じられます。
「Baby Gets Around a Bit」では、サラセーノのブルース色が強く出ており、これまでのポイズンのサウンドに新たな風を吹き込んでいます。この曲のグルーヴィーなリズムと力強いギターワークは、従来のファンにとっても新鮮に感じられる部分です。また、歌詞のユーモラスなトーンもポイズンらしさを失っておらず、彼らの音楽に対する軽やかな姿勢が伺えます。
アルバムのハイライトの一つである「Be the One」は、感情的なバラードで、ブレット・マイケルズの歌声が際立つ一曲です。ポイズンが得意とするバラードスタイルに加えて、サラセーノのメロディアスなギターソロが曲全体を引き立てています。歌詞はロマンティックで感動的な内容で、ポイズンのバラードファンにとっては欠かせないトラックとなっています。
「Sexual Thing」や「Lay Your Body Down」では、バンドの典型的なセクシャリティと自信に満ちた態度が表れています。これらの曲は、ポイズンの典型的なグラムメタルサウンドを継承しつつも、サラセーノの影響でよりテクニカルかつモダンな感触を持っており、バンドの新しい方向性を感じさせます。
『クラック・ア・スマイル…アンド・モア!』の最大の特徴は、彼らが90年代の音楽シーンの変化に適応しようとしながらも、決して自分たちのアイデンティティを見失わなかった点です。彼らの音楽は依然としてキャッチーで、ポップで、そして楽しさに満ちていますが、サウンドの進化と新しいギタリストの影響によって、より幅広い音楽性を持つ作品に仕上がっています。
アルバムの「アンド・モア!」部分には、未発表トラックやアコースティックライブなど、ファンにとってのボーナス要素が盛り込まれています。これにより、ポイズンの過去の楽曲とこのアルバムの新しい方向性との対比が明確に感じられ、バンドの成長を振り返ることができる構成になっています。
総じて、『クラック・ア・スマイル…アンド・モア!』は、ポイズンが90年代においてもなお進化し続け、音楽的な柔軟性と多様性を持ち続けていることを示す作品です。新しいギタリストの加入によって、サウンドが洗練され、楽曲の幅も広がっていますが、彼らの持つ明るく陽気なエネルギーと遊び心は変わらず健在です。このアルバムは、ポイズンの進化を感じたいファンにとっても、新しいサウンドを楽しむことができる作品と言えるでしょう。
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