『リーチ・フォー・ザ・スカイ』
ラット
ラットの1988年リリースの4枚目のスタジオアルバム『リーチ・フォー・ザ・スカイ (Reach for the Sky)』は、バンドのキャリアの中でも重要な転換点となる作品です。前作『ダンシング・アンダーカヴァー』で見せたダークでハードな方向性をさらに押し進めつつ、彼らの持つキャッチーなグラムメタルの要素をしっかりと保持しています。ただし、アルバム全体を通して感じられるのは、音楽的な方向性の模索とバンド内の不安定さです。
アルバムのオープニングを飾る「City to City」は、ラットらしいエネルギッシュでキャッチーなロックナンバーです。力強いギターリフとスティーヴン・パーシーの特徴的なボーカルが曲を引っ張り、バンドの魅力を詰め込んだ一曲です。曲の展開もスムーズで、聴き手を一気にアルバムの世界に引き込む力を持っています。
シングルカットされた「I Want a Woman」は、バンドの持つキャッチーなメロディとストレートなロックのエネルギーが融合した楽曲で、特にウォーレン・デ・マルティーニのリードギターが光る一曲です。この曲では、彼のスリリングで技巧的なギターワークが大きな魅力となっており、ラットのサウンドをよりダイナミックにしています。歌詞の内容はシンプルながらも、ラットらしいセクシュアルなテーマが前面に押し出されており、バンドのスタイルを強く感じさせます。
「Way Cool Jr.」は、このアルバムを代表する楽曲で、ブルースの要素を取り入れた斬新なアプローチが際立っています。ファンキーなリズムとスライドギターの導入により、これまでのラットの楽曲とは一線を画すユニークな曲調が特徴で、バンドの新たな一面を示しています。この曲はシングルとしても成功を収め、ラットのサウンドの幅広さをアピールしました。
しかし、『リーチ・フォー・ザ・スカイ』には、全体を通してアルバムの一貫性やまとまりが不足している印象も否めません。楽曲ごとに個々の魅力はありますが、バンドの方向性がやや混沌としている点が感じられます。特に、楽曲ごとの質のばらつきや、一部の曲が他の作品と比べて記憶に残りにくい点が指摘されることが多いです。
「Don’t Bite the Hand That Feeds」や「What’s It Gonna Be」などは、典型的なラットのサウンドを継承していますが、同時に新鮮さや驚きに欠ける印象もあります。特に「What’s It Gonna Be」では、デ・マルティーニのギターソロが光るものの、全体の構成がやや単調で、アルバム全体の勢いを削いでしまうように感じられるかもしれません。
また、このアルバムの制作時期は、バンドメンバー間の緊張が高まっていた時期でもあり、その影響がサウンドに現れている部分もあります。プロデューサーのボー・ヒルが再び関与していますが、当初の一貫したサウンドプロダクションと比べると、いくらかエッジが失われた印象もあり、アルバム全体のサウンドがやや控えめに感じられるかもしれません。
『リーチ・フォー・ザ・スカイ』の最大の魅力は、ウォーレン・デ・マルティーニのギターワークにあります。彼のプレイはアルバムを通じて安定感を保ち、特にソロパートではその技巧とエモーショナルな表現力が輝いています。彼の演奏がバンドの持つダイナミズムを支え、楽曲に深みを加えています。
総じて、『リーチ・フォー・ザ・スカイ』は、ラットのキャリアの中で重要なアルバムではありますが、過去の作品に比べてややまとまりを欠き、バンド内の不安定さが反映された作品と言えるでしょう。いくつかの楽曲ではラットの持つエネルギーや新しいサウンドへの挑戦が感じられますが、一方でアルバム全体の統一感が薄れ、方向性の迷いが見られる部分もあります。しかし、ファンにとっては、バンドが進化を試みたことがうかがえる作品であり、特にデ・マルティーニのギターワークは今でも高く評価されています。
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