『ダンシング・アンダーカヴァー』
ラット
ラットの1986年リリースの3枚目のアルバム『ダンシング・アンダーカヴァー (Dancing Undercover)』は、バンドが従来のグラムメタルの華やかさから一歩踏み出し、よりストリート感のあるラフで直感的なアプローチを見せた作品です。『情欲の炎』や『インヴェイジョン・オブ・ユア・プライヴァシー』で築いた成功を基に、ラットはここで新しい方向性を追求し、ハードエッジなサウンドに磨きをかけています。
「Dance」で幕を開けるこのアルバムは、キャッチーさとエネルギーが融合した典型的なラットのナンバーで、シングルとしても商業的な成功を収めました。ウォーレン・デ・マルティーニの鋭いギターワークと、スティーヴン・パーシーの粗削りなボーカルが見事に融合し、バンドの持つエッジが全開です。この曲は、アルバム全体の勢いを象徴し、エレクトリックなエネルギーを放っています。
「Body Talk」は、映画『ゴールデンチャイルド』のサウンドトラックにも使用され、非常に速いテンポとアグレッシブなリフが特徴のハードな楽曲です。デ・マルティーニのリフが攻撃的でありながらキャッチーで、ラットの独特のサウンドを維持しつつ、よりヘヴィな一面を強調しています。パワフルなドラムとベースラインが楽曲を支え、スリリングな雰囲気を作り出しています。
「Slip of the Lip」では、ラットらしいセクシュアルなテーマが全面に押し出され、グラムメタルのセンスが色濃く残っています。リズムの強さとシンプルでキャッチーなコーラスが特徴で、ライブでも盛り上がること間違いなしの一曲です。また、この曲ではパーシーのボーカルがより粗野でありながらも感情を引き出しており、彼の存在感を強く感じることができます。
『ダンシング・アンダーカヴァー』では、全体的にアルバムのトーンがダークで、音の厚みが増しているのが特徴です。「Looking for Love」や「7th Avenue」では、従来のキャッチーさは保ちながらも、よりロックの核心に迫るようなシリアスで硬派なサウンドが展開されています。特に「7th Avenue」では、複雑なギターリフとリズムパターンが印象的で、バンドの音楽的な成長が感じられます。
ギタリストのウォーレン・デ・マルティーニとロビン・クロスビーのコンビネーションはこのアルバムでも強力で、彼らのギターワークはアルバムの隅々にまで息づいています。デ・マルティーニのテクニカルなソロは今作でも健在で、特に「Take a Chance」ではその卓越した技術が光ります。また、クロスビーのリズムギターは楽曲の土台をしっかりと支え、バンドのサウンドに深みを与えています。
本作は、ラットが従来のグラムメタル的なイメージから脱却し、よりハードで洗練されたロックサウンドにシフトしようとする意図が強く表れている作品です。プロデューサーのボー・ヒルは再びその手腕を発揮し、サウンドに力強さを加えながらも、バンドの持つキャッチーな要素を損なうことなくバランスを取っています。
全体として、『ダンシング・アンダーカヴァー』は、ラットが成長し、音楽的な方向性を広げたアルバムです。よりラフでハードなエッジを持つサウンドと、従来のキャッチーでセクシーな要素が共存し、彼らの音楽がより成熟しつつもエネルギーを失わないことを証明しています。商業的には前作ほどの成功には至らなかったものの、バンドの音楽的探求と進化を示す重要な作品です。
このアルバムは、80年代後半のハードロックシーンの中で、ラットが自らのスタイルを確立し、試行錯誤しながらも前進しようとする姿勢が感じられる一枚で、ファンやロックファンにとって今なお聴く価値のある作品です。
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