【アルバム紹介】『X』

『X』
デフ・レパード

デフ・レパードの2002年リリースのアルバム『X(テン)』は、バンドにとって新たなサウンドの探求を示す意欲作であり、彼らのディスコグラフィの中でも特異な位置を占めています。このアルバムは、従来のハードロックやアリーナロックの要素を一部残しつつも、よりポップでメロディアスな方向性を強く打ち出した作品です。バンドがポップロックやAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)にアプローチし、サウンドに幅広い変化を加えたことが、ファンや批評家の間で賛否を分ける要因となりました。

『X』のサウンドは、過去の作品とは大きく異なります。80年代の代表作『ヒステリア』や『パイロマニア』で見せた重厚なギターリフやアリーナロックの大音量コーラスとは一線を画し、今回はより洗練された、ポップでラジオフレンドリーなサウンドが前面に出ています。バンドは、当時の音楽シーンで主流となっていたポップロックのトレンドに影響を受け、キャッチーでスムーズなメロディを追求しました。その結果、デフ・レパードの過去のファンにとっては新鮮さと戸惑いが混在する作品となっています。

アルバムのオープニングトラック「Now」は、その新しい方向性を象徴する楽曲で、ミッドテンポのポップロックサウンドが特徴です。キャッチーなメロディとシンプルなギターリフが融合し、バンドが意識的にロックよりもポップを強調していることが感じられます。歌詞は時間と共に変わりゆく関係性をテーマにしており、ジョー・エリオットのボーカルは感情豊かで、曲全体に切なさが漂っています。

「You’re So Beautiful」も、ポップ要素が強く、耳に残る明快なメロディと軽快なリズムが特徴の楽曲です。この曲では、シンプルながらも効果的なアレンジが際立っており、特にコーラスが印象的です。従来のデフ・レパードのエッジの効いたロックサウンドよりも、メロディアスなポップロックに寄せたアプローチが新しい試みを感じさせます。

「Unbelievable」は、バンドのポップロックへのアプローチが最も明確に表れた一曲で、リッチなコーラスとシンセサイザーの要素が加わり、サウンドが一層洗練されています。この曲は、軽快なリズムと甘いメロディが際立ち、デフ・レパードのこれまでのイメージを大きく刷新した一曲です。

一方で、「Four Letter Word」などの楽曲では、従来のロックサウンドが戻ってきます。この曲はシンプルなロックナンバーで、ギターリフとエネルギッシュなボーカルが前面に出ており、ファンにとっては懐かしいサウンドが感じられるでしょう。アルバム全体がポップに寄りつつも、こうしたトラックでバンドのロックルーツが完全に消えたわけではないことが示されています。

「Long, Long Way to Go」は、アルバムの中でも特に注目されるバラードで、優しく感傷的なメロディが特徴です。この曲は感情を抑えた静かなアプローチが印象的で、バンドのバラード作りの上手さを再確認させてくれます。シンプルなアレンジが楽曲の感情的な深みを引き立て、リスナーに強い印象を与えます。

商業的には、『X』はデフ・レパードにとって予想外の結果をもたらしました。アルバムはポップ志向の強い作品として新たなリスナー層を引きつける一方で、従来のファンからは賛否両論がありました。彼らの特徴であるアリーナロックやハードなギターリフを期待していたファンにとって、ポップ寄りのサウンドは驚きと戸惑いをもたらしたものの、逆にこの時代の音楽トレンドに適応しようとする彼らの挑戦を評価する声もありました。

総評として、『X』はデフ・レパードが音楽的に新たな領域を開拓しようとしたアルバムです。ポップロックとバンドの従来のロックサウンドを融合させ、洗練されたメロディアプローチを試みています。これまでのファンにとっては意見が分かれるかもしれませんが、デフ・レパードが音楽的な柔軟性を持ち、時代に合わせて進化し続けようとする姿勢を示した作品であり、彼らの多面的な魅力を感じさせる一枚です。

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