【アルバム紹介】『スラング』(『Slang』)

『スラング』
デフ・レパード

デフ・レパードの1996年リリースのアルバム『スラング(Slang)』は、バンドにとって大きな転換点を象徴する作品です。80年代のアリーナロックやポップメタルの王者として知られていた彼らが、時代の流れや音楽的変化に対応しつつ、新たなサウンドへ挑戦した意欲作として評価されています。このアルバムは、それまでの華やかなプロダクションやキャッチーなメロディから一転し、グランジやオルタナティブ・ロックの影響を受けた、よりダークで内省的なスタイルを取り入れています。

『スラング』が他のデフ・レパードの作品と大きく異なるのは、プロダクションとサウンドのアプローチです。1980年代の代表作『ヒステリア』や『アドレナライズ』に見られる、精緻で多層的なスタジオサウンドとは異なり、今回はより生々しい、オーガニックなサウンドが強調されています。バンドはデジタル技術に頼らず、スタジオでのライブ演奏に近い録音方法を選び、これがアルバム全体に自然で粗削りなエネルギーを与えています。また、リック・アレンのドラムが電子ドラムからアコースティックドラムへと切り替えられており、サウンドによりリアルな力強さを加えています。

アルバムのオープニングトラック「Truth?」は、その変化を象徴するような曲で、以前の作品よりもヘヴィでダークなリフが特徴的です。歌詞もこれまでの楽曲に比べてより内面的で、自己探求や現実の問題に向き合う内容が含まれています。デフ・レパードが、当時の音楽シーンの影響を受けながらも、彼ら独自のサウンドを維持しようとしている姿勢が感じられる一曲です。

タイトル曲「Slang」は、ファンキーなリズムとキャッチーなメロディが融合した実験的な楽曲で、バンドの新しいサウンドへの挑戦を明確に示しています。この曲は、ファンキーなベースラインとグルーヴ感が特徴的で、従来のデフ・レパードの音楽とは一線を画すスタイルが印象的です。ジョー・エリオットのボーカルも、これまでのアリーナロックの大らかなスタイルから、より感情を抑えた、内面的な表現にシフトしているのがわかります。

「Work It Out」は、フィル・コリンによる作詞作曲で、静かなイントロから次第に盛り上がるダイナミックな構成が特徴です。この曲もまた、従来のアリーナロック的なパワーとは異なる、より実験的でオルタナティブなアプローチが見られ、当時の音楽シーンの流れを反映しています。

「Breathe a Sigh」は、デフ・レパードの新しいバラードのスタイルを示す楽曲で、柔らかく繊細なメロディが印象的です。シンプルな編曲と控えめなボーカルが、楽曲に親しみやすさと感情的な深みを加えており、これまでの彼らの大ヒットバラードとは異なる雰囲気を醸し出しています。

『スラング』の中で注目すべき点は、歌詞のテーマにもあります。80年代のデフ・レパードの楽曲が愛やパーティー、楽しさといったテーマを中心にしていたのに対し、『スラング』では自己反省、孤独、喪失、現代社会の不安といった、よりシリアスでダークなテーマに焦点が当てられています。バンドが個々のメンバーの個人的な体験や感情を反映させ、より内省的で深みのある歌詞を作り上げたことが、このアルバムの特徴的な要素となっています。

商業的には『スラング』は前作ほどの大ヒットには至りませんでした。90年代半ばはグランジやオルタナティブロックの全盛期であり、デフ・レパードのような80年代のハードロックバンドにとっては厳しい時代でした。それでも、このアルバムはファンや批評家から評価され、特にその音楽的な実験性と進化を称賛されました。

総評として、『スラング』はデフ・レパードが音楽的に進化し、新しい方向性を模索した大胆な試みです。従来のキャッチーなアリーナロックを期待するファンにとっては驚きのある作品かもしれませんが、その内省的な歌詞と生々しいサウンドは、バンドの多様な才能と柔軟性を証明しています。時代の流れに適応しながらも、自分たちのアイデンティティを保ち続けた『スラング』は、デフ・レパードのディスコグラフィの中で異色ながらも重要な一枚として位置付けられています。

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